男も、女も、意外に知らない 女性アスリートの“秘かな”お悩み、BEST5

#インタビュー

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今回のテーマは、女性アスリートが抱えるカラダの悩みについて。
東京・渋谷区にある、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長、スポーツドクターでもある婦人科医の、高尾美穂先生にお話を伺った。

高尾先生は、トップレベルの選手の健康管理とともに、アスリート向けのヨガ指導も行う、全ての女性アスリートの守護神ともいうべき存在。
女性のカラダを左右するホルモンの働きを、最新の知見とともに分かりやすく、“女性アスリートのお悩み、ありがちランキング”の形で紹介していこう。
まずは気になる、第5位「女子の貧血」からスタート!

Vol.14 高尾美穂さん(「イーク表参道」副院長)

 

〈プロフィール〉
たかお・みほ/産婦人科専門医・医学博士・婦人科スポーツドクター。「女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道」副院長、「株式会社ドーム」アドバイザリードクター、「スポーツ庁・国立スポーツ科学センター」女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバー。この他、大手スポーツクラブ数社の顧問医師のほか、「一般社団法人アスリートヨガ事務局」理事も務め、ドクター兼ヨガ指導者として、数多くのアスリートの指導にあたり、関連する講演活動も数多く行っている。

《第5位 女子の貧血》

 

クラっとするのは、貧血ではない!?
 

 

「女子の貧血って、よく聞きますよね。朝の満員電車で、“貧血でクラっとしたので、会社を遅刻します”って。でも実は、その状態だけでは、私たちドクターは、貧血と言いません」
スポーツドクターでもある婦人科医の高尾美穂先生は、そう語る。

「医学的な意味での貧血は、血液中のヘモグロビンの値が低い状態です。これは、血液検査をしないと分かりません。先ほどの朝の満員電車の女性を、世の中では“貧血”と言っていますが、医学的には“迷走神経反射”と呼んでいます」
クラっとして、血の気がサーッと引いて、立っていられなくなる“迷走神経反射”の原因は、血圧を司る神経の働きだと、高尾先生は語る。

 

カラダを目覚めさせて、立ちくらみ予防
 

 

「私たちのカラダでは、2つの神経が常にバランスを取っています。頑張る=交感神経と、リラックスする=副交感神経の2つです。家から外に出て、“今日一日頑張るぞ”という時は、本来、交感神経がだんだん優位になるのですが、カラダがしっかり起きていないと、血圧を上げられずに立ちくらんでしまい、世の中で言う“貧血”になります」

対策は、自分のカラダに、“今が朝だ”と、きちんと教えること。
「ヨガでも、ラジオ体操でも、何でも良いので、カラダを意識的に動かしてください。プラス、ごはんを食べましょう。パンやお米、スープなどでも良いので、何かしら口にすると、カラダは目覚めます」
カラダを起こすことで、いわゆる“貧血”は、簡単に防げるのだという。

 

“もとから貧血”ではなく、徐々に貧血になる
 

 

「血液中のヘモグロビンが低い、医学的に正しい意味での貧血の方からは、“私、もともと貧血なので、治療しなくても大丈夫です”という言葉をよくお聞きします。でも、もともと貧血ってことは、まずありません。何年も掛けて、ちょっとずつヘモグロビンの値が下がっていって、結果的に貧血になっているのです」

その理由が、女性に毎月やってくる生理、そしてスポーツだという。
「生理による出血で、ジリ貧的にヘモグロビンが減っていく貧血が多いですね。少しずつ減ったので、その状態にカラダが順応してしまい、生活する上で、本人は困っていないんです」

高尾先生によれば、そこに落とし穴があるという。
「ヘモグロビンの値が低いと、心臓の鼓動1回で運べる酸素の量が少なくなります。その結果、普段から心拍の数が増えて、長い目で見れば、心臓への過度な負担になってしまいます」
アスリートであれば、貧血は酸素の運搬能力が低いため、パフォーマンスの低下にも繋がってしまう。

「“あいつ、やる気がない”と言われていた選手に血液検査をしてみると、ヘモグロビンの値が低いことは、普通にあり得ます。アスリートであれば、ヘモグロビンは半期に1度のチェックが目安です。効果的な練習を積んでいるはずなのに、“パフォーマンスが出ない”とか“疲れが取れない”場合にも、血液検査はアリだと思います」

2019年11月、ケニアのスラム街で、女性対象の出張保健サービスを視察。「世界で妊産婦と女性を守る」国際NGO〈JOICFP(ジョイセフ)〉の取り組みを伝える活動も行っている。写真提供/高尾美穂

 

汗や尿、ランの着地衝撃も、貧血の原因に
 

 

女性アスリートは、生理で失われる血液に加え、普段のトレーニングでも、貧血のリスクが高まるという。
「スポーツで大量に汗をかいたり、水分補給によって尿量が増えると、汗や尿と一緒に、鉄がカラダから失われます。加えて、食事から摂る鉄が不足すれば、貧血になる可能性が高まります。ヘモグロビンには鉄が不可欠で、鉄が失われると、貧血になってしまうのです」

さらに、長距離ランナーや剣道の選手など、走ること、踏み込む動作も、貧血の原因に繋がるという。
「足の裏を何回も地面に叩きつけますよね。この動きによって、ヘモグロビンを運んでいる赤血球自体が破壊され、貧血になります。こうした貧血も、おしっこの色が濃いくらいで、本人の自覚はほぼありません」

ヘモグロビンの値が低い場合は、クスリやサプリメントの鉄剤を飲んだり、場合によっては、静脈注射の治療も考えられるという。
「鉄剤の静脈注射は、当たり前ですが、血液検査をした上で、治療として行います。鉄などの金属は、過剰に摂るとカラダに溜まってゆき、将来的に害を及ぼすことも覚えておいて欲しいですね」

 

女性アスリートこそ
自分のカラダを学び直そう

 

 

 「自分のカラダについて学ぶ機会、いつあったか、思い出せますか? 小学4年生くらいでしょうか? 私たちの世代だと、女の子と男の子を分けて、男の子は校庭でサッカーしている間に、女の子だけ、音楽室などで“あなたたちには、生理がくるのよ”っ て、初めて知ったと思います。その後は、高校の保健体育で、妊娠しないための方法、つまり避妊について学びますが、自分のカラダについて、さらに学ぶ機会はほとんどありません」

生理というカラダの変化を、どう捉えるか? 高尾先生は、その受け止め方が大事だと語る。
「幼稚園の頃は、男の子も、女の子も一緒に、ドッチボールとか駆けっことかをやっていました。生理が始まる第二次性徴の前は、男の子も女の子も、身長も体重も、走る能力もボールを蹴る能力もさほど差はありません。でも、小学校の徒競走は、高学年になると男女別になります。第二次性徴を迎えると、男の子は筋肉質に、女の子は脂肪質に変わります。体格も、運動能力にも差が出るので、男女を分けて活動するようになるのです」

ケニアのスラム街での視察は、地元警察の護衛付きだったという。写真提供/高尾美穂

 

“成長のピーク”を経て
カラダは大きな変化を迎える

 

「パッと見ても、骨格が違います。男の子は、肩幅が広くて、腰幅がそれほど広くない逆三角形体型になります。女の子は、おっぱいが大きくなり、骨盤周りも大きくなって、その間のウエストがくびれて見えます。
こうした第二次性徴の変化のうち、私たち婦人科医にとって一番大切な、初めての生理=初潮を迎えます」

 初潮には、身長の成長が大きく関わってくる。
「第二次性徴には、成長のピークと呼ばれる1年間があります。女の子の身長が、1年で8㎝伸びると、その約1.3年後に、初潮が来ると報告されています。裏返せば、成長のピークがないと、初めての生理が来ないのです」

 しかし、スポーツの世界では、成長のピークを迎えないまま、大人になるケースがある。
「スポーツの世界は、幼い頃からひとつの競技を続けるケースが少なくありません。例えば、レスリングや新体操では、5歳や6歳から競技を始めて、しかも、その競技だけという子も多くいます。
彼女たちは、その競技に相応しい体型を、誰が何も言わなくても理解しています。そこで“カラダは、軽くて、細い方が、動きやすいよね”という判断をして、十分なエネルギーを摂らなくなるのです。
普通に生活してれば、ほとんどの子は成長のピークを迎えます。でも、ジュニアアスリートの中には、初めての生理を迎えずに、その後も競技を続けている人が少なからずいます。これは、とても大きな問題です」

 生理がないまま大人になる怖さは、女性にとって大切なホルモンの欠如に直結するという。
「生理を迎えることは、カラダの中にちゃんと女性ホルモンがあるということです。女性の臓器では、子宮が有名だと思います。子宮は、縦7㎝、横5㎝、厚み3㎝、医学部の学生は七五三って覚えます(笑)。
この子宮は、生まれた時から七五三ではなく、幼稚園ぐらいの頃は、親指ほどのサイズです。子宮は、子宮の横にくっついている、卵巣という臓器から出される女性ホルモンによって、成熟したサイズまで育ってゆくのです」
子宮にとって、卵巣から出される女性ホルモンの働きが大切なのだ。

高尾先生が実演する、疲れたカラダに効くリラックスヨガ「抱えてツイスト」は、動画で紹介(arbeee.netの「MOVIE」コーナーにて、近日、公開予定!)

次回は、女性らしさのホルモン=エストロゲンの働きの紹介と、このホルモンに関連する、女性アスリートの“秘かな悩み”ランキングを続けよう。

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